トイレの水位がじわじわと下がっていく。ラバーカップを使っても詰まっている様子はなく、タンクにも異常が見られない。そんな不可解な現象に遭遇した時、その原因は排水路に潜む、ある物理現象かもしれません。それは「毛細管現象」と呼ばれるもので、故障や詰まりとは少し異なるメカニズムでトイレの封水を奪っていきます。 毛細管現象とは、細い管や隙間の中の液体が、自重に逆らって吸い上げられていく現象のことです。ティッシュペーパーの端を水につけると、水がどんどん染み上がっていくのが身近な例です。トイレの排水路は、悪臭を防ぐためにS字状にカーブしていますが、このカーブの頂点にトイレットペーパーの溶け残りの一部や、掃除の際に流してしまった髪の毛などが引っかかってしまうことがあります。 この引っかかった髪の毛などが、まるで一本の細いストローのような役割を果たします。便器の封水側からS字カーブを越えて下水管側へと垂れ下がることで、毛細管現象によって水が少しずつ吸い出され、排水路の向こう側へと流れ落ちていってしまうのです。この場合、大量の水を一度に流した時の流れは悪くないため、詰まっているとは気づきにくいのが特徴です。しかし、時間が経つと確実に水位が下がっているため、原因が分からず不安になってしまいます。 もしこの現象が疑われる場合は、一度バケツに汲んだ水を勢いよく便器に流し込んでみてください。水の勢いで引っかかっている髪の毛などが押し流されれば、症状は改善します。日頃から髪の毛や糸くずなどを安易にトイレに流さないように心がけることも、こうした見えないトラブルを防ぐための大切な習慣です。大きな故障を疑う前に、こうした小さな科学現象が原因となっていないか、一度考えてみてはいかがでしょうか。