その日は仕事で疲れ果て、泥のように眠りについていました。深夜二時を過ぎた頃、どこか遠くでパチャパチャと規則的な音が聞こえてくるのに気づき、薄暗い意識の中で目を覚ましました。最初は雨音かと思いましたが、その音は次第に大きくなり、何か不穏な気配を漂わせています。寝ぼけ眼で廊下に出た瞬間、足裏に伝わったのは冷たく不快な水の感触でした。一気に目が冴え渡り、視線の先にあるトイレのドアの隙間から、まるで生き物のように水が這い出している光景を目にしました。慌ててドアを開けると、そこは小さな池のようになっており、便器から絶え間なく透明な水が溢れ出し、床一面を覆い尽くしていたのです。私の心臓は激しく鼓動し、パニックに近い状態で立ち尽くしました。まず何をすべきか、頭の中の知識を総動員しましたが、いざ目の前で水が溢れ続けていると、冷静な判断を下すのは至難の業です。咄嗟にバスタオルを数枚掴み、廊下への浸水を防ごうと堰き止めましたが、水流は止まる気配を見せません。このままでは階下の住人に迷惑をかけてしまうという恐怖が背中を駆け抜けました。震える手でスマートフォンのライトを頼りに、タンクの脇にある止水栓を探し当てました。しかし、長年動かしていなかったその栓は固く、指先が痛くなるほど力を込めてもビクともしません。絶望感が襲いかかる中、工具箱からマイナスドライバーを取り出し、祈るような気持ちで体重をかけて回しました。ようやく手応えがあり、水が止まった瞬間の静寂は、今でも忘れられません。そこから始まったのは、果てしない排水と拭き掃除の作業でした。バケツで水を汲み出し、何度も雑巾を絞るうちに、外は少しずつ白み始めていました。ようやく床が乾き、消毒作業を終えた頃には、心身ともに疲れ果てていました。この経験から学んだのは、日頃の点検がいかに重要かということです。止水栓がスムーズに回るか、水の流れに違和感はないかといった些細な確認が、このような惨劇を防ぐ唯一の手段なのです。あの冷たい水の感覚と、暗闇の中での孤独な戦いは、私の防災意識を根本から変える強烈な出来事となりました。
深夜の静寂を破るトイレの浸水トラブルと格闘した一夜の記録